漕げ、漕げ、ボートを
漕げ、漕げ、ボートを やさしく流れに乗って
陽気に 陽気に 人生なんてただの夢
「ワイルドサイドをほっつき歩け」というブレイディみかこさんのエッセイ集にこんな歌詞の一節が出てきます。これは「Row Row Row Your Boat」という童謡の和訳です。
英語の歌詞なので和訳にはいろいろニュアンスの違いがあるでしょうが、この和訳が私はとても好きです。
「Life is but a dream」 「人生なんてただの夢」
人生なんて、というところが好きです。
街を歩いていると、電車に乗っていると、公共の場を利用していると、ほんの数分、数秒のことなのに、「なぜこの人はこんなにヒリヒリしているのか!!」と驚く場面にたまに遭遇する。
あと数駅で終点なのに隣の人をずっと睨んでいるなこの人は!!とか、小さく肘打ちしているなこの人は!!とか、他人と他人が接触する場面でヒリヒリ人間が誕生している。
他人というものに対しての意識の高さ、膨れた不寛容さが人の形をもって凶暴に顕現する。もうそんなの苦しさしかない。
そういう場面に遭遇した時、
「あーこの人めっちゃイライラしてるやん。もう嫌いだわ」とか「降りちゃえ降りちゃえ、そんなに気に食わないなら!」なんて思ってしまう。
でも、日常的に嫌いなんていう感情を自分の中に持ってしまうのは虚しい。
私が嫌だ。
こんなふうに私の中のヒリヒリが数ミリでも意識を持った時に、この歌詞を思い出すと、どうでもよくなる。ヒリヒリがスッと消える。
陽気に 陽気に 人生なんてただの夢
これを苦し紛れの現実逃避だと冷笑する人もいるだろうか。
もちろん、ヒリヒリな現場に居合わせないことが一番だ。
ただ、どうしてもエンカウントしてしまうことはある。
自分ではどうしようもない力が働くのが人生で、自分で舵をとっているようでも、流れに逆らえない時がある。仕組まれているかのような偶然に出会ってしまうのだ。
それが不運でも幸運でも。
だから、現実だなんだと区別する前に、呪文のように唱えれば良い。
漕げ、漕げ、ボートを やさしく流れに乗って
陽気に 陽気に 人生なんてただの夢